「看護師の処遇改善が進んでいると聞いたけれど、自分の給料は上がっている?」
「基本給は変わっていない。夜勤手当が増えたのは、賃上げのおかげ?」
こうした疑問は、振込額だけを見ても解決しにくいものです。看護師の給与には、基本給、毎月の手当、夜勤手当、時間外手当などがあり、それぞれ増減する理由が異なります。
まず確認したいのは、基本給・毎月の手当・夜勤1回あたりの単価の3つです。そのうえで、夜勤回数や残業時間、控除額を見比べると、「何が増えて、手元にいくら残ったのか」を整理できます。
この記事では、2026年度の処遇改善制度を踏まえ、給与明細の比較方法と勤務先への確認手順を解説します。主に病院・診療所で働く看護師を想定しています。訪問看護や介護施設、公務員として勤務する場合などは、適用される制度や給与規程も確認してください。
2026年の看護師の賃上げで何が変わった?
2026年6月1日施行の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを支えるベースアップ評価料が見直されました。日本看護協会は、評価料の増額に加え、看護職員処遇改善評価料やベースアップ評価料による収入を夜勤手当の増額に充てられるようになったことを案内しています。日本看護協会「看護職員の処遇改善に向けて」、厚生労働省「改定の施行に関する案内」
ベースアップ評価料は、医療機関などが届け出て算定し、職員の賃金改善に活用する仕組みです。看護師本人が申請し、一律の金額を国から受け取る給付金ではありません。勤務先の届出と、実際にどの給与項目へ反映するかを確認する必要があります。厚生労働省「ベースアップ評価料等について」
制度上の「基本給等」は、明細の「基本給」だけではない
厚生労働省の施設基準通知では、基本給に加え、毎月決まって支払う手当も「基本給等」に含めています。また、恒常的に夜間を含む交替制勤務を行う職場の職員への夜勤手当も、これに含められる扱いです。厚生労働省「施設基準通知」第104・第105
そのため、基本給欄が変わっていないという理由だけで、賃金改善がなかったとは判断できません。別の手当として支給されていないか、夜勤手当の単価が変わっていないかも見ていきましょう。
ただし、明細の増額が今回の制度によるものかは、明細だけでは分からないことがあります。定期昇給、昇進、勤務先独自の賃上げと区別するには、給与改定のお知らせも必要です。
給与明細で確認する5つの項目
明細の項目名は勤務先によって異なります。以下の表を、自分の明細を読むための目安として使ってください。
| 確認する欄 | 見比べる内容 | 一緒に確認したいこと |
|---|---|---|
| 基本給・本給 | 改定前後の月額。時給制なら時給 | 定期昇給、昇進、勤務時間の変更がなかったか |
| 毎月の手当 | 処遇改善手当、ベースアップ手当、調整手当などの新設・増減 | 名称の変更や、別項目への組替えではないか |
| 夜勤手当 | 同じ勤務形態での1回あたりの単価と回数 | 準夜勤・深夜勤・二交代夜勤を混ぜていないか |
| 時間外手当など | 残業時間、休日勤務などの実績 | 働いた時間が増えたことによる増額ではないか |
| 控除・差引支給額 | 税金、社会保険料、その他控除と最終的な手取り | 支給が増えた月に、控除も増えていないか |
例えば「処遇改善手当」という欄が新しくできても、同時に別の手当が変わっていれば、新設額だけでは給与全体の変化を説明できません。増えた欄と減った欄を両方確認し、不明点を給与担当へ聞く材料にします。
賞与については、毎月の明細とは別に確認しましょう。基本給の引上げが賞与へどう反映されるかは、勤務先の算定方法によります。
夜勤手当は「単価」と「回数」を分けて比べよう
夜勤手当の合計が増えた場合は、まず回数をそろえて考えます。
以下は、比較方法を説明するための架空の例です。実際の平均額や、制度で保証される金額ではありません。
| 状況 | 夜勤1回の手当 | 夜勤回数 | 月の夜勤手当 |
|---|---|---|---|
| 比較の基準 | 10,000円 | 4回 | 40,000円 |
| A:回数が増えた | 10,000円 | 5回 | 50,000円 |
| B:単価が上がった | 11,000円 | 4回 | 44,000円 |
Aは1万円増えていますが、夜勤の単価は変わっていません。Bは同じ4回で4,000円増えているため、夜勤1回に対する待遇が改善しています。ただし、その財源がベースアップ評価料なのか、勤務先独自の改善なのかは別途確認します。
回数と単価の両方が変わったときは、改定前の回数で計算し直すと、単価変更の影響が見えます。
例えば、10,000円×4回から11,000円×5回になった場合、合計は15,000円増えます。このうち、もともとの4回に対する単価引上げ分は4,000円、追加の1回分は11,000円です。
なお、明細上で深夜割増と夜勤手当が別に表示される場合などは、合計額を単純に回数で割っても正しい単価にならないことがあります。同じ勤務形態・時間数で比べ、給与規程の計算方法を確認してください。
改定前後の明細と、勤務実績をセットで確認する
用意したいのは、改定前の明細、改定後の数か月分の明細、勤務表、給与改定のお知らせです。電子明細なら、比較する月を保存しておくと後から確認しやすくなります。
次の順序で整理してみましょう。
- いつの勤務分かをそろえる
基本給と夜勤手当で支払う月がずれる場合があります。支給月だけでなく、何月の勤務が対象なのかを確認します。 - 基本給と毎月の手当の差額を出す
定期昇給や昇進、時短勤務などの変更もメモします。 - 夜勤・残業の量をそろえて比べる
単価変更と、回数・時間の増減を分けます。 - 遡及分や一時金を分ける
数か月分の差額が一度に入った月は、通常月の収入として扱わないようにします。 - 控除額と手取りの差を確認する
額面の増加と、振込額の増加を別々に記録します。
この比較は、自分の給与の変化を知るためのものです。医療機関が制度上の賃金改善額を報告する際の計算を、そのまま再現するものではありません。
額面が増えても、手取りが同じだけ増えるとは限らない
手取りの基本的な関係は、次のとおりです。
支給合計 − 控除合計 = 差引支給額
架空の例として、支給合計が8,000円増え、控除合計が2,000円増えたなら、手取りの増加は6,000円です。ここでの2,000円は説明用の数字で、賃上げに対する税率や標準的な控除額を示すものではありません。
また、給与が変わった月と、保険料の計算の基礎が変わる月が一致しないこともあります。日本年金機構の随時改定では、固定的賃金の変動、変動後3か月の報酬による等級差、支払基礎日数などの要件を満たした場合、原則4か月目から標準報酬月額を改定します。給与が少し増えるたびに、必ず改定されるわけではありません。日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
勤務先や加入する保険によって確認先が異なるため、「保険料の変更があるか」「どの月の明細に反映されるか」を給与担当に聞くと整理しやすくなります。
年収全体から見た手取りの目安は、看護師の年収・手取りを年代・勤務先・役職別に解説した記事も参考にしてください。
給与担当へ聞きたい5つの質問
明細だけで判断できない場合は、次の質問をまとめて聞くと、必要な説明を受けやすくなります。
| 質問 | 確認したいこと |
|---|---|
| 今回の賃金改善は、私のどの給与項目に反映されていますか? | 基本給、毎月の手当、夜勤手当などの内訳 |
| 定期昇給や昇進による増額と、今回の処遇改善分を分けて教えてください。 | 増えた理由の切り分け |
| 何月分から適用され、何月の給与で支払われますか? | 遡及差額を含む反映時期 |
| 夜勤手当の単価は変わりましたか? | 回数増による増額との違い |
| 日勤のみ・時短勤務・非常勤の場合は、どのような扱いですか? | 自分の働き方に応じた対象・支給条件 |
厚生労働省の施設基準通知には、対象職員への賃金改善方法等の周知や、照会があった際に書面などで分かりやすく説明する規定があります。給与改定のお知らせや説明資料を確認することから始めましょう。厚生労働省「施設基準通知」第104・第105
問い合わせの際は、「○月と○月を比べると、この欄が変わっています」と具体的に伝えると話が進みやすくなります。
増えた給与を、無理なく続く家計へつなげる
賃上げを確認できたら、増えた金額をすぐに固定費や積立へ振り向ける前に、働き方が変わっても残る収入かを考えます。
例えば夜勤単価が1,000円上がっても、月4回なら増加分は4,000円、月2回なら2,000円です。日勤のみになった後も同じ増額が続くとは限りません。
通常月の手取りから生活費と年払い支出の積立を引き、残る額を確認します。生活の予備費が足りなければ現金で確保し、そのうえで長期的に使わない余裕資金について資産形成を検討する順序なら、夜勤や残業が減ったときにも対応しやすくなります。
給与明細を読む目的は、増額を見つけることだけではありません。どの働き方なら、毎月いくら残せるかを把握することです。
よくある質問
基本給が変わっていなければ、賃上げされていないということですか?
基本給欄だけでは判断できません。毎月の手当や夜勤単価の変更も確認し、今回の処遇改善がどこへ反映されたかを給与担当へ聞きましょう。
夜勤手当の合計が増えたら、単価も上がっていますか?
回数が増えただけの場合もあります。勤務表と明細を合わせ、同じ勤務形態の1回あたりの手当で比べてください。
ベースアップ評価料の届出がある病院なら、全員が同じ金額だけ上がりますか?
届出の有無だけで、自分の増額を確定することはできません。対象者、反映する給与項目、勤務時間などを含む、勤務先の説明を確認してください。
日勤だけで働く看護師は、何を確認すればよいですか?
基本給と毎月の手当を中心に見比べます。夜勤手当の有無だけで、処遇改善の対象かどうかを判断しないようにしましょう。
差額がまとめて振り込まれました。毎月の積立額を増やしてもよいですか?
まず何か月分の差額かを確認し、今後も続く通常月の増額と分けて考えます。通常月の手取りと支出を確認してから、継続できる額を検討しましょう。
看護師の働き方に合う、お金の整え方を学ぶ
「夜勤を減らした後も、今の家計を続けられるか知りたい」「毎月の手取りから、いくら将来へ備えればよいか整理したい」。
Life Canvasでは、医療従事者・看護師に向けて、家計と資産形成の基礎を学ぶ勉強会をご案内しています。給与明細で収入の内訳を確認したら、これからの働き方も含めて、お金の使い道を考えてみませんか。
制度確認日:2026年9月12日。本文中の給与比較は、特記したものを除き説明用の架空例です。実際の給与項目・対象者・支給条件は、勤務先の給与規程と改定のお知らせをご確認ください。