40代になると、親の健康や介護が身近な話題になってきます。そのなかで見落とされがちなのが、「親が認知症などで判断能力を失うと、親のお金を家族でも動かせなくなる」というリスクです。介護費用や生活費の支払いに、親の預金を使おうとしても引き出せない、という事態が実際に起こりえます。いざその場面になってから慌てるより、事前に仕組みを知り、できる備えをしておくほうが、家族の負担はずっと軽くなります。この記事では、口座凍結のリスクと、それに備える選択肢の基礎を整理します。
「親のお金が動かせなくなる」リスク
親が認知症などで判断能力が低下すると、本人による契約や財産の管理が難しくなります。このとき問題になるのが、子どもなどの家族であっても、親の財産を自由に動かせるわけではない、という点です。
たとえば、親の介護施設の費用を親の預金で払いたい、自宅を売って介護費用にあてたい、といった場面でも、本人の判断能力が失われていると、手続きが進められないことがあります。「家族なのだから何とかなるだろう」と思っていると、いざというときに動けず、子ども世代が費用を立て替えざるを得なくなることもあります。まずこのリスクがあることを知っておくのが、備えの出発点です。
認知症の診断だけで全口座が自動凍結するわけではない
銀行は本人の意思や取引内容を確認し、財産保護のために取引を制限する場合があります。認知症と診断されたというだけで、すべての銀行口座が一斉に自動凍結される仕組みではありません。
家族だから自由に引き出せるわけでもないため、本人の意思を確認できるうちに、銀行が用意する代理人制度や、判断能力が低下した際の必要書類を相談します。医療・介護費の支払いで困った場合は、事情を銀行の窓口に伝え、可能な手続きを確認します。
備えの選択肢を知る
親のお金が動かせなくなるリスクへの備えには、いくつかの制度や方法があります。代表的なものを整理します。制度の詳細や適否は個別の状況によります。
| 選択肢 | 概要 | 性格 |
|---|---|---|
| 成年後見制度 | 判断能力が低下した人を支援する公的な制度 | 本人保護が目的 |
| 家族信託 | 財産の管理を家族に託す仕組み | 柔軟な財産管理 |
| 任意代理・委任など | 元気なうちに手続きを取り決める方法 | 事前の取り決め |
どの選択肢が適しているかは、親の財産の状況や家族の事情、何を実現したいかによって変わります。共通するのは、「判断能力があるうちに準備できる選択肢」と「判断能力が低下した後に使う制度」がある、という点です。早めに知っておくほど、選べる選択肢が広がります。逆に、何も準備しないまま判断能力が低下すると、選べる手段が限られてしまうことも覚えておきましょう。
法定後見・任意後見・家族信託を分ける
法定後見は、判断能力が不十分な人のために家庭裁判所が後見人等を選ぶ制度です。任意後見は、十分な判断能力があるうちに公正証書で契約し、判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。どちらも本人の保護を目的とします。
家族信託は、契約で定めた財産の管理等を託す方法です。身上保護を含むすべての対応を代替するものではなく、対象財産、受託者の責任、費用、税金、取引金融機関の対応を確認します。名前や柔軟さだけで選ばず、親の希望と必要な手続きに合うかを専門家と整理します。
元気なうちに話しておくことの大切さ
これらの備えの多くは、親に判断能力があるうちでなければ準備が難しいものがあります。だからこそ、親が元気なうちに、家族でお金や将来について話し合っておくことが大切です。
とはいえ、お金や認知症の話は切り出しにくいテーマです。いきなり「財産はどうするのか」と聞くと、親も身構えてしまいます。まずは、介護や住まいの希望、加入している保険、取引のある金融機関といった身近な話題から、少しずつ共有していくとよいでしょう。「もしものときに困らないように、一緒に整理しておこう」という姿勢で臨むと、前向きな話し合いになりやすいといえます。40代は、親も比較的元気で、こうした話を始めやすい時期です。先送りにせず、できることから少しずつ進めておくことが、将来の家族の安心につながります。一度にすべてを決めようとせず、折に触れて少しずつ話題にしていくくらいの気持ちで十分です。親の意向を尊重しながら進めることが、納得のいく備えにつながります。
親の備えと自分の老後資金を混ぜない
親の入院・介護費の支払い先、毎月額、年金の振込口座、代理手続きの相談先を一覧にします。成年後見や家族信託は対象と費用、できることが異なるため、必要な範囲を専門家に確認します。
親の資産があるというだけで、自分の積立を減らす前提にはしません。親の生活を支える資金と自身の教育・老後資金を分けて整理することが、家族全体の資産形成を長く維持する助けになります。